股関節の痛み

股関節は日常の基本動作(立つ・座る・歩く・走る・しゃがむなど)において非常に重要な役割を果たす関節です。股関節の痛みはスポーツをしている学生さんやご年配の方まで幅広い年代で診られますが、それぞれ痛みの原因は必ずしも同じとは限りません。また股関節に問題が起きると、動きが悪くなったり歩く際などに痛みを生じるようになってしまいますが、それだけではなく腰・膝・肩など他の部分にまで波及する可能性があるため、股関節周りに痛みや違和感を感じられている方ははお早めにご相談いただくことをお勧め致します。今回は股関節の痛みに関する症状を記載していきますのでご参照下さい。

股関節の構造と働き

股関節は大腿骨の大腿骨頭が骨盤の寛骨臼という窪みにはまり込むような形で構成されています。肩関節と同じ球関節という種類の関節に分類され、非常に大きな可動域が特徴です。また膝関節などと同様に体重がかかる荷重関節となります。肩関節の場合は可動域が大きい反面、脱臼も発生しやすいですが、股関節の場合は大腿骨頭の約2/3を寛骨臼が覆っているため、容易には脱臼出来ない作りとなっています。

股関節の周囲は繊維性の靭帯や関節包という組織で補強されており、関節の安定性を高めています。また関節内部には約2~4mmほどの厚さを持つ関節軟骨が介在しており、荷重時に関節に加わる負担を軽減し、関節の動き自体もスムーズにする役割を果たしています。

股関節の痛みの原因

例えば変形股関節症の場合、一般的には関節内の軟骨がすり減ってしまうことによって痛みが生じているイメージが強いかと思います。しかし実際には関節軟骨に痛覚は存在しません。つまり「股関節の痛み=軟骨」ではないのです。実際に痛みを発しているのは関節周囲の軟部組織(関節包、靭帯、腱)であることが分かっています。またその原因は股関節だけではなく足首・膝・骨盤から由来しているケースも多いため、すぐに人工関節などの手術をしてしまうのはあまりお勧めしません。

※軟骨自体は痛みを出しませんが、硬い骨同士がぶつかると痛みを生じさせることはあります。

分類

変形性股関節症

変形性股関節症は、股関節が痛くなる代表的な疾患で、関節を滑らかにするためにクッションの働きをしている軟骨が何らかの原因によりすり減ってしまい股関節に痛みが生じると言われている疾患です。変形性膝関節症の股関節版と考えてください。前述の通り変形性股関節症と診断されていても「痛みの原因=軟骨」ではありません。関節を構成している筋肉・腱・靭帯(軟部組織)、もしくは身体全体のバランスから痛みを来している事が多いですので、やみくもに手術に踏み切らない事を推奨します。欧米ではヒアルロン酸注射についてもやむを得ない時や多様に使用する事は勧めないとエビデンスが出ていますので、注射についてもよくご検討ください。

【参考】変形性膝関節症(こちらにヒアルロン酸注射についても記載してあります)

臼蓋形成不全症

臼蓋形成不全は股関節の臼蓋と呼ばれる部分の作りが浅く、骨頭を十分に覆うことが出来ていない状態を言います。受け皿が浅い状態だと関節自体の不安定性が増加し、骨頭で骨棘が形成されたり軟骨が摩耗することで股関節の痛みを引き起こすとされています。変形性股関節症の疑いや原因が不明な際にもよく診断として用いられますが、上記の変形性股関節症と同様に必ずしもその痛みが臼蓋形成不全による痛みとは限らないのでご注意下さい。

グロインペイン症候群

グロインペイン症候群は主にサッカー選手に好発する股関節(鼠径部)の痛みの総称です。非常に慢性化しやすくしっかりと治療しないままプレーを続けていると歩行や階段など日常生活にも支障をきたすこともあります。一般的に治りづらいとされていますが、痛みの原因の部分が分かれば早期での改善も見込めるため、決して諦める必要はありません。

股関節捻挫

股関節捻挫は股関節に無理な力が加わった際に発生します。具体的には、高い所から飛び降りた衝撃、事故や転倒などによる直接的な外力、開脚やストレッチでの開き過ぎなどが挙げられます。ただの捻挫だからといって放置していると股関節の可動域制限や変形を招く危険性もある為、受傷後はなるべく早期に適切な治療を受ける必要があります。

股関節インピンジメント

スポーツを行っている若年層に多くみられ、股関節の引っかかり感や運動時の股関節・鼠径部の痛みを訴えます。インピンジメントとは「衝突」を意味しており、関節軟骨や関節唇(関節の安定性を高める軟部組織)などの股関節周囲の軟部組織が、反復動作によって微細な損傷や変性を引き起こしている状態を言います。変形性股関節症と診断されるケースもある為、しっかりとした鑑別が必要となります。

先天性股関節脱臼

先天性股関節脱臼とは、出生前後に股関節が外れてしまう疾患です。多くは、出生後に患う事が多く、男の子よりも女の子に多いという統計が出ています。早期治療がカギとなりますが、赤ちゃんが痛いと教えてくれることはないので、気づくのに少し遅れてしまうかもしれません。股を拡げたときに『コキッ』などと音がする、片足の開きが悪い、動きがおかしいな?と感じた際は、早めに医療機関にてしっかりと今後の治療と対策をしてください。

外傷性股関節脱臼

股関節脱臼は交通事故やスキー・スノーボードでの転倒など大きな外力が加わることによっても発生します。発生は比較的稀ですが、激痛を伴い自力での歩行が困難となってしまいます。また同時に大腿骨近位骨折や神経・血管障害を引き起こす可能性もあるため、早期の整復・医療機関の受診が必要となります。

リウマチ性股関節炎

リウマチ性股関節炎は関節リウマチに伴う股関節の痛み・炎症のことを言います。関節リウマチは女性の方が男性の約2~3倍発症しやすく、25~50歳で発症することが多いとされており、正確な原因は不明ですが自己免疫疾患であると考えられています。この免疫システムの異常によりが骨・関節軟骨・靭帯が侵され変形が進行します。また症状は関節だけとは限らず、細胞間の結合組織や血管にも炎症を起こす可能性もある為、関節以外の症状にも注意が必要です。

大腿骨骨頭壊死

大腿骨頭に血液を送る大動脈や静脈は非常に複雑な走行をしており、血流障害を引き起こしやすい構造となっています。大腿骨骨頭壊死は大腿骨頭への栄養血管で血行障害起き、骨が壊死してしまう疾患です。原因は不明とされていますが、アルコール摂取量が多い方やステロイド剤を大量に使用した場合に発症するケースが多いようです。また大腿骨骨頭壊死は国の特定疾患にも指定されているため、専門の医療機関での受診をお勧め致します。

ペルテス病

ペルテス病は骨端症と呼ばれる成長期のこどもに多くみられる疾患の一つであり、大腿骨頭が血行障害により壊死を起こしてしまいます。5~10歳の活発な男の子に多く発症し、股関節の痛みやそれによる跛行(脚をひきずって歩く)、股関節の可動域制限を伴います。壊死自体は自然治癒しますが、放置していると変形がどんどん進行し、将来的に変形性股関節症になってしまうリスクも増加するためなるべく早期の治療が必要です。

さいごに

ご覧いただいたように「股関節の痛み」といっても原因は様々であり、一回の外力や繰り返しの負荷によるものもあれば、先天的要因や原因が分かっていないものまで多岐にわたります。しかし変形性股関節症のように一般的に言われている痛みの原因が実は違っているという可能性もあるのです。最近は股関節の人工関節の技術も発達し、人工関節自体の寿命も長くなりましたが、やはり手術前後でのお身体への負担や影響は計り知れません。手術は一番最後の選択肢であるべきだと当院では考えています。もし現在、医療機関で手術を勧められ迷われている方がいらっしゃいましたら、手術の前に出来ることは全部やってみるべきかと思います。

またグロインペインや股関節捻挫などのスポーツにおける股関節の痛みは非常に慢性化しやすく、フォームやプレーへの悪影響などその後のスポーツ活動にも支障が懸念されます。なるべく早い段階で適切な治療を行っていく事が競技復帰への最短の道のりです。

股関節の痛みでお困りの方は【横浜駅徒歩12分:なる.整骨院】へご相談ください。