腰椎分離症とは?
腰椎すべり症は日本人のうち5~7%が発症するとされている腰部疾患のひとつです。腰椎の骨の一部が繰り返しの負荷により分離してしまったもので、腰の疲労骨折とも言えます。主にスポーツをしている10代の男子(13~14歳がピーク)に好発し、スポーツをしていない子に比べ約3倍も発生率が高いと言われております。約90%が第5腰椎に発生しますが第4腰椎に発生することもあります。そのうち約70~80%は両側に発生し、両側性は片側に比べ骨癒合に時間がかかります。
腰椎分離症の原因
➊ 反る・捻る動きの多いスポーツ
腰椎分離症はスポーツ障害として診断されることも多く、その大きな原因としてはスポーツ動作における椎弓への疲労・ストレスの蓄積が挙げられるでしょう。中でも特に大きな負担をかけるのが、腰を反らす動き(後屈)と腰を捻る動き(回旋)です。具体的にこの2つの動作が多いスポーツ、つまり腰椎分離症の好発が考えられるスポーツは下記の通りです。
- 野球
- テニス
- ゴルフ
- バドミントン
- バレーボール
- サッカー
- 水泳
- 体操、新体操
❷ 体幹支持筋力の不足
腰椎の動き・安定性にとって筋肉は非常に重要です。腰椎の動きをコントロールするのは筋肉なのですが、成長期の子供の場合、十分にお腹や背中の筋肉が発達しておらず腰椎への負担が大きくなってしまいます。特にインナーマッスルである多裂筋や腹横筋という筋肉が弱かったり上手く機能していないケースが多いです。
❸ 股関節の可動域低下
股関節は腰と非常に密接な関係にあり、スポーツにおいても重要な役割を果たします。腰を反る動きや捻る動きにも股関節の柔軟性が必要となりますが、股関節が柔軟性が不十分な場合はその分腰椎へかかる負担が大きくなります。サッカーのキック動作が良い例です。勢いのあるボールを蹴ろうとする際にテイクバックといって上体を反らしながら後ろに大きく脚を振り上げる動作があるのですが、この動作には股関節の伸展という動きが必要となります。しかし股関節がかたいとその分を腰の過剰に反ることで代償してしまうので、結果的に腰椎へ負担が大きく加わってしまいます。
【股関節周囲の柔軟性チェック】
あくまでも目安ですが股関節の柔軟性のチェック法を紹介します。複数当てはまる場合、分離症のみではなくその他のケガのリスクとなるので要注意です。
1)仰向けの状態で膝と股関節を曲げていき、みぞおちのあたりまでまっすぐ抵抗なく曲がれば正常です。
2)仰向けの状態で膝を伸ばしたまま足を持ち上げ、90°まで上がれば正常です。
3)うつ伏せの状態で膝を曲げ、踵がお尻につけば正常です。
4)仰向けの状態で膝を軽く曲げてそのまま外側に倒します。途中で引っかかりなくパタッと倒れれば正常です。
なぜ成長期に好発するのか?
10代の成長期に多く発生する理由としてはこの時期の身体の特徴が影響しています。成長期は骨も筋肉も発達している途中であり、身体が不安定でバランスを崩しやすい状態です。それに加えスポーツ動作においてもフォームがしっかりと定まっていない場合が多く、より腰椎への負担が大きくなってしまいます。また成長期の骨は成人の骨と比べ少し柔らかくなっている為、一回の外力で折れるというよりは、徐々に負担が蓄積して折れてしまう疲労骨折を引き起こすのです。針金などの金属が繰り返し曲げ伸ばししているといずれ折れてしまうのと同じイメージですね。
腰椎分離症の症状
腰椎分離症は下記のような自覚症状を引き起こします。
- 上体を反らすと痛い
- 腰を捻ると痛い
- 長時間同じ姿勢でいると痛い
- 運動をしていると痛い
- 腰の骨を押すと痛い
腰椎分離症は基本的に下肢のしびれ・痛みや筋力低下などの神経症状はほとんどありませんが、症状が進行し後述の分離すべり症になってしまうと上記の神経症状をきたす場合があります。
腰椎分離症の病期分類
腰椎分離症は治療をせずにスポーツ続けたり、腰への繰り返し負担をかけてしまうことで、進行して症状や病態が変化していきます。それぞれ早期・進行期・終末期に分けられて診断されることが多いです。
❶ 早期
繰り返しの負荷により腰椎の一部において分離が始まります。椎間板ヘルニアと誤認されやすくレントゲン上はまだハッキリと亀裂を確認することは出来ません。強い痛みが持続するケースが多いですが、この時期に治療を開始出来れば早期での改善・スポーツ復帰が望めます。早期における骨癒合の目安は約3ヶ月です。
【参照】腰椎椎間板ヘルニアとは?
❷ 進行期
腰椎の椎体から一部が分離しかかっている状態です。レントゲン上では椎弓と呼ばれる部分にはっきりと亀裂が確認出来ます。早期に比べると、腰を反らしたりした際に局所的な痛みを生じるようです。治療を行えばまだ骨癒合も可能ですが、早期に比べると時間がかかります。進行期における骨癒合の期間は約6ヵ月です。
❸ 終末期
椎弓が完全に分離してしまうことで分離部が偽関節という状態になってしまいます。この終末期になってしまうと骨癒合はほぼ期待出来ません。椎間関節の不安定性が強くなることで、周囲の靭帯や軟部組織で慢性的な炎症を引き起こします。骨癒合は望めないものの、炎症や痛み物質の除去を行う事で痛みを改善することは可能です。
腰椎分離症の検査
腰椎分離症の検査は主に画像診断が用いられますが、症状の進行度によってレントゲン・CT・MRIが使い分けられます。早期はまだ分離はしておらず骨折もしていない為にレントゲンやCTではあまり変化を認めません。早期の診断にはMRI検査が有効とされており、MRIの場合は骨の中や筋肉・靭帯の炎症、つまり分離・骨折の前兆を調べることが可能です。CTは一部が分離している進行期や完全に分離している終末期において有効な検査となります。レントゲンも進行期から終末期にかけては有効で、特徴的な所見として「スコッチテリアの首輪」と呼ばれる骨折線が認められます。
早期 |
進行期 |
終末期 |
|
MRI |
〇 |
△ |
× |
CT |
△ |
〇 |
〇 |
レントゲン |
× |
△ |
〇 |
腰椎分離症をそのまま放置してしまうと
腰椎分離症は治療をせずそのまま放置してしまうと早期⇒進行期⇒終末期と進行し、最終的には分離部の骨癒合が望めなくなってしまいます。しかしもそれだけではなく、終末期からさらに放置すると後述の腰椎分離すべり症にまで進行してしまう危険性があります。腰椎分離すべり症分離によって支持性を失った腰椎がズレてしまい、慢性的な腰痛や下肢の痛み・しびれ・筋力低下などの神経症状を引き起こします。腰椎分離症から腰椎分離すべり症に移行する割合は約70~80%とも言われており、非常に高い確率で発症していることが分かります。その為、なるべく早期での治療開始が望ましいでしょう。
腰椎すべり症とは?
腰椎は第1腰椎から第5腰椎まであり、それぞれの腰椎と腰椎の間を椎間関節と呼びます。これらは本来、正面・横から見たときにはきれいに並んでいるのですが、椎間関節や椎間板などの異常によって骨がずれてしまうことがあり、これを腰椎すべり症と言います。腰椎のずれる方向によりそれぞれ後方すべりと前方すべりがありますが、ほとんどの場合が前方すべりです。
腰椎すべり症の原因と分類
➊ 分離すべり症
前述の腰椎分離症が進行し原因となって起きるタイプです。分離症によって腰椎の連続性が絶たれてしまっているため、腰椎の不安定性が増加し、その結果腰椎がずれてしまいます。分離すべり症の場合は第5腰椎に好発します。
❷ 変性すべり症
すべり症の中でも最も頻度が高く、手術が必要となるケースも多くみられるタイプです。特に50~60歳以降の女性に多く発症し、理由の1つとして閉経が関与していると言われています。閉経するとホルモンバランスの乱れや女性ホルモン(エストロゲン)が減少し骨密度の低下などを引き起こします。さらに加齢により椎間板や靭帯などの軟部組織が変性し、腰椎の支持性が失われてしまい徐々にずれてしまうのです。変性すべり症の場合は第4腰椎が最も多く、次いで第5・第3腰椎にみられます。
腰椎すべり症の症状
- 腰痛
- 下肢痛・下肢のしびれ
- 間欠性跛行
- 馬尾神経レベル(排尿障害・会陰部障害)
- 背骨に凹みを触れる
腰椎すべり症は腰椎がずれてしまうことで神経根や脊柱管を圧迫し神経症状をきたすことがあります。坐骨神経痛のような下肢の痛みやしびれなどの他にも、感覚異常・筋出力の低下・下肢の循環障害を引き起こす可能性もあります。また一定の距離を歩くと下肢の痛みやしびれが増悪する間欠性跛行という症状は脊柱管狭窄症にもみられる症状なので鑑別が必要です。
【参照】坐骨神経痛とは?
腰椎すべり症の検査
腰椎すべり症の検査は主に画像診断で行われ、腰椎のずれに関してはレントゲン、神経の圧迫に関してはMRIをそれぞれ用います。触診においてはうつ伏せに寝た状態で腰椎を触っていくと、階段変形と呼ばれる凹みを触知することが出来ます。
腰椎分離症・すべり症の治療方法
医療機関の場合
腰椎分離症は保存療法が第一に選択されます。早期や進行期など骨癒合が望める時期の場合は、患部への動揺性を防ぐためコルセットを着用し、腰への負担のかかるスポーツ活動は休止します。腰の痛みに対しては、温熱療法・物理療法・湿布薬・痛み止めを用いて炎症の抑制や痛みの緩和をはかります。安静期間の後痛みが軽減してきたら体幹の筋力強化・ストレッチを開始し、競技復帰を目指していきます。ただし保存療法で骨癒合が得られない場合や症状が続くような場合は手術療法で骨を繋げることもあります。
腰椎すべり症も基本的には保存療法から行いますが、生活に支障の出るレベルの痛みやしびれであったり、排尿障害などの馬尾神経レベルでの神経症状がある場合は手術療法を行うこともあります。
【保存療法】
➊ 安静・筋力強化・ストレッチ
腰への負担を軽減し、関節・筋肉の炎症を抑えるために安静が基本となります。スポーツを行っている場合にも原則中止です。また再発予防のため体幹の筋力強化やストレッチなどを行っていきます。ただし必要以上の安静は改善を遅らせる可能性もあるので注意が必要です。
❷ 装具療法(コルセット)
コルセットを着用し患部への動揺性を防ぎます。コルセットにも様々な形や種類がありますが、各医療機関によって処方されるものは異なるようです。長期間のコルセットの着用は腰周囲の筋肉の萎縮(衰えること)や「コルセットがないと不安」という依存心を生じさせるため避けた方が良いでしょう。
❸ 内服・外用薬
主に鎮痛を目的に消炎鎮痛剤・シップ、筋緊張を緩和させる為の筋弛緩薬が使用されます。消炎鎮痛剤をなど薬は効果や副作用がそれぞれ異なりますので、しっかりと担当のお医者さんに伺うことをお勧め致します。
【参照】リリカカプセルの副作用
❹ 物理療法
炎症の抑制や発痛物質の除去を目的として、温熱ホットパック、干渉波、低周波などが用いられます。
❺ 神経ブロック療法
痛みの原因となる部分に対して局所麻酔薬や抗炎症薬を打ち込むことで、交感神経の興奮抑制・局所の血流改善・痛みの抑制を図ります。1~2回で効果を感じる場合は有効かと思いますが、繰り返し習慣的に打つことはあまりお勧めしません。
【参照】ブロック注射って効果あるの!?
当院での評価方法
当院では『画像診断と症状は必ずしも一致しない』と考えております。つまりレントゲンやMRIなどの画像診断で腰椎に分離症やすべり症の所見があるからといって、必ずしも痛みがそれらによって引き起こされたものではないということです。これは欧米でもエビデンスが出ている事実です。実際に画像では分離していても痛みが全くないという方も多くいらっしゃいます。
➊ 姿勢の評価
やはり姿勢の評価は基本でありながら重要となるポイントです。腰に負担のかかりやすい姿勢をしていれば、一度痛みが消失してもしばらくすると再発してしまう要因となります。また姿勢不良の場合、呼吸がしっかりと出来ていない可能性があります。特に慢性的な痛みや症状でお困りの方にとって呼吸は非常に大切です。
【参照】姿勢を正す本当の理由
❷ 筋肉・関節の評価
筋肉の緊張によって後述のトリガーポイントが形成されたり、関節の可動域の低下を引き起こしているケースも多くみられます。しっかりとどの筋肉がどのような状態で身体にどういった影響を及ぼしているのかを可動域と共にしっかりと確認をしていきます。
❸ トリガーポイントの評価
トリガーポイントとは筋肉の酷使や局所的な血行不良や酸素欠乏によって形成された、圧に対する感度が高く過刺激性のポイントのことです。筋肉などの軟部組織に存在することが多く、存在する場所と離れた部位に痛みをもたらします。一般的に潜在性と活動性に分類され、潜在性は圧迫されない限り症状が引き起こされないのに対して、活動性は圧迫されなくても症状を引き起こします。分離症やすべり症などの場合、大腰筋・腰方形筋・中殿筋・小殿筋のトリガーポイント評価が重要となります。
❹ 自律神経の評価
慢性的な痛みを患っていらっしゃる方の多くは、痛みやしびれに長期間悩まされてしまうことで自律神経の乱れも併発しています。自律神経の調整を行うだけでも身体の反応自体が大きく変わってきます。
当院の治療方法
➊ 手技療法
当院では基本的に手技療法にて治療を行っていきます。分離した部分を直接くっつけたり、すべり症による腰椎のずれを元に戻しずれないように固定をすることは出来ません。しかし、必ずしも痛みの根源がそこだとは限らない為、上記の評価結果を元にKYテクニック、トリガーポイント、仙腸関節調整、カイロプラクティックなど様々な技術を用いて施術を行っていきます。
❷ 治療器
当院で使用している立体動態波、超音波、微弱電流、ハイボルテージはオリンピック選手団やトップアスリートも使っている治療器です。除痛・消炎・温熱・治癒促進などそれぞれの治療器を組み合わせることで様々な効果が期待できます。また超音波は出力を調整することで骨癒合を促進することも可能です。
❸ トレーニング・セルフケア指導
腰の安定性に関与する筋肉のトレーニングや、関節可動域・筋緊張を改善するためのセルフケア方法を指導致します。特にスポーツを行っている学生さんは一般の方よりも身体を酷使する為、よりご自身でのセルフケアやトレーニングが必要となります。しかし、ひたすら腹筋のトレーニングを行っても症状を悪化させる可能性があるため非常に危険です。トレーナー経験のあるスタッフが直接指導を行いますのでご安心ください。