上腕二頭筋長頭腱炎とは?

 

上腕二頭筋は主に肘を曲げた際に使われる力こぶの筋肉です。その名の通り筋肉の始まり(起始部)が2つあり、それぞれ長頭腱と短頭腱に分けられます。長頭腱は肩関節の関節唇から付着し、上腕骨の大結節と小結節の間にある結節間溝という窪みを通ります。本来は上腕二頭筋が収縮すると、この結節間溝の間を長頭腱がスムーズに滑走するのですが、何らかの原因によりこの部分で摩擦が発生し炎症を起こしてしまうことがあり、これを上腕二頭筋長頭腱炎と呼びます。好発年齢は主に30~50歳の男性とされ、特に普段重い物をよく持ったり力仕事が多い方に発生しますが、それ以外にも野球などのスポーツでのオーバーユースによって引き起こされる場合もあるようです。

上腕二頭筋長頭腱炎の原因

➊ オーバーユース・柔軟性の低下

一番の原因としては上腕二頭筋の酷使が考えられます。仕事で重い物を持つことが多かったり、スポーツを頻繁に行っていて上腕二頭筋への負担が大きくなると、徐々に筋肉が柔軟性失われ腱のスムーズな滑走が失われてしまいます。その状態でさらに上腕二頭筋を酷使することで発症につながってしまうのです。

スポーツにおいては、特にオーバーヘッドスポーツと呼ばれる野球、バレーボール、ハンドボール、テニス、水泳に好発します。

❷ 加齢による腱の変性

人間の体内の約60%は水分で構成されていますが、この水分量は加齢と共に低下していきます。筋肉や腱などの軟部組織にとっても水分は非常に重要で、水分量が低下してしまうとパサパサとした質感に変わってしまい柔軟性を失ってしまいます。この加齢による腱の変化を変性と呼び、変性した腱は少しの外力でも傷ついてしまうようになります。

❸ 姿勢不良

いわゆる猫背や巻き肩のと呼ばれる姿勢不良も上腕二頭筋長頭腱炎の原因の一つとなります。肩が内側に入った状態になると肘は少し曲がった状態になります。姿勢不良の方の場合、この状態が肘が曲がった状態が続くことで上腕二頭筋が萎縮してしまい、結果としてうまく伸び縮みが出来なくなってしまうのです。また姿勢不良により呼吸量が低下してしまうことで症状を治りづらくさせてしまいます。

【参照】姿勢を正す本当の意味

上腕二頭筋長頭腱炎の症状

上腕二頭筋長頭腱炎には主にこのような症状がみられます。

☑ 重い物を持つと痛い

☑ 手を挙げると痛い

☑ 手を背中に回すと痛い

☑ ドアノブを回すときに痛い

また上腕二頭筋長頭腱炎、痛みの場所や痛みの出る動作または原因によって5つの痛みのパターンが存在します。

➊ 一番多いパターンで主に肩の前面、上腕骨の結節間溝部に痛みが生じます。上腕二頭筋の緊張により長頭腱とけ結節間溝のスペースが狭くなってしまい、骨と腱が繰り返し擦れることで炎症が起きている状態です。

❷ ➊がさらに悪化すると、徐々に肩から力こぶ全体にかけて鈍痛・ツッパリ感を感じるようになります。スポーツをされている方に多く、主に動作時に痛みを強く感じます。

❸ ❸がさらに悪化すると肩から手首にかけても痛みを生じるようになります。また肩関節の可動域制限も出現し、、何もしていなくても痛みや違和感を感じるように感じるようになってしまいます。

❹ 長頭腱のみではなく短頭腱にも痛みが現れる場合もあります。長頭腱の炎症によって短頭腱の負担大きくなり徐々に柔軟性を失ってしまうことで発症します。

❺ 可動域制限が強くなり痛みの範囲も前面だけでなく後面にも広がってくる場合もあります。この場合は肩関節周囲炎(五十肩・四十肩)と混同されることが多く鑑別が必要となります。

【参照】四十肩・五十肩

上腕二頭筋長頭腱炎の検査法

上腕二頭筋長頭腱炎には「スピードテスト」「ヤーガソンテスト」という代表的な2つの徒手検査法(テスト法)があります。各検査法の詳細は下の動画をご覧下さい。

➊ スピードテスト

❷ ヤーガソンテスト

上腕二頭筋長頭腱炎は治りずらい?

一般的に上腕二頭筋長頭腱炎は慢性化しやすく治りづらい傾向があります。

➊ 負荷がかかりやすい

上腕二頭筋は肘を曲げたり、腕を外側に捻る働きがあります。その為、日常生活において非常に使われる頻度が高く、完全に安静をはかることが困難です。簡単に言うと患部を休ませることが難しいので治るスピードが遅くなってしまうということです。

❷ 他の疾患と合併しやすい

上腕二頭筋長頭腱炎は腱板損傷、滑液包炎、インピンジメント症候群、関節包の癒着・拘縮など、他の肩関節の疾患と合併しているケースも多くみられます。それぞれの程度にもよりますが、他の疾患と合併しているケースの方が改善まで少し時間がかかるかと思います。

【参照】肩峰下滑液包炎

【参照】インピンジメント症候群

❸ 初期段階での見逃し・放置

上腕二頭筋長頭腱炎は日常での負荷・ストレスが蓄積することで起こります。初期段階では痛みではなく違和感や引っかかり感を感じる方が多いですが、その程度だとあまり気にされない方がほとんどです。しかし徐々に症状は悪化していき、明確に痛みとして認識した頃には既に慢性化し治りづらくなっています。どんなケガや痛みも同じですが、やはり早期段階での治療開始が早期改善のポイントですね。

❹ 腱の血流量

組織の回復には血流が必要不可欠であり血流に富んでいるほど早い回復が見込めます。しかし身体全体に均等に血管が分布しているというわけではなく、血流に富んでいる部分もあれば血流が乏しい、もしくは全く血流が無いという部分も存在します。筋肉は比較的血流に富んでいますが、腱や靭帯は血流に乏しいために治りにくいとされています。

一般的な治療法

  • マッサージ・ストレッチ
  • テーピング
  • 超音波・低周波
  • マイクロ波・赤外線
  • 抗炎症剤、鎮痛剤、湿布薬
  • ステロイド注射

一般に上腕二頭筋長頭腱炎に対しては、鎮痛や血流改善を目的とした物理療法(超音波、低周波、マイクロ波、赤外線)や、筋肉を緩めるためのマッサージやストレッチが主に行われます。また整形外科では抗炎症剤・鎮痛剤・湿布薬の処方や関節内にステロイド薬を注射するなどの薬物療法が用いられているようです。

肩の治療において関節内にステロイド薬・非ステロイド薬・ヒアルロン酸などを注射する方法があります。しかし、2~3回の注射で改善がみられない場合はそれ以上過度に注射をすることはお勧めしません。繰り返しの注射により軟部組織が傷ついてしまったり、吸収しきれなかった薬剤が関節内に貯留してしまう可能性があるからです。これは膝や肘などほかの関節においても同じことが言えます。

当院の治療法

➊ 姿勢・全身のチェック

必ず患部だけではなく姿勢も含めて身体全体のチェックを行います。肩関節が正しく動くためには肩甲骨・背骨・骨盤・股関節といった様々な部分が関与するからです。上腕二頭筋長頭腱炎は負担が徐々に蓄積した結果の症状のため、上腕二頭筋への負荷がかかりやすい姿勢や身体の使い方が背景となっているケースも多くみられます。

当院ではKYテクニック、仙腸関節調整、カイロプラクティックなど様々な手法を用いて施術致します。

❷ 筋膜リリース

上腕二頭筋長頭腱炎では長頭腱に繰り返しのストレスが加わることによって癒着が起こっているケースもあります。滑走・動きが悪くなっている場合もあります。当院ではファズブレードという医療用ステンレス製の器具を使用し癒着を取り除いていきます。

【参照】筋膜リリースとは?

❸ 特殊治療器/立体動態波/3D微弱電流/超音波/ハイボルテージ

当院で使用している立体動態波、超音波、3D微弱電流、ハイボルテージは日本のオリンピック選手団も使用おり、痛みや炎症の抑制、組織の回復促進など各治療器を組み合わせることで様々な効果が期待出来ます。これらの治療器に加え、関東に1台しか置いていない定電流治療器も必要に応じて使用します。

【参照】定電流治療器AAPとは?

予防法

上腕二頭筋長頭腱炎を予防するためには、力仕事やスポーツ前には必ずストレッチを行うこと、終わったはストレッチやマッサージなどのセルフケアを行うことが非常に重要となります。

➊ 上腕二頭筋ストレッチ

肘を伸ばした状態で手の甲を壁に軽く当てます。この際に力こぶを上に向けるような意識を持って下さい。その状態で体を伸ばす側と反対の方向にゆっくりと捻ると徐々に伸張感が得られます。このとき背中が丸くなってしまうと上手く伸びないので、しっかりと背中を伸ばした状態で行いましょう。この方法だと長頭腱を優位に伸ばすことが出来ますが、壁に当てる手を上向きにすることで短頭腱を優位に伸ばすことも可能です。

❷ 大胸筋ストレッチ

肩が内側に入ってしまう原因となりやすい筋肉です。手を上げた状態で壁に手をつき、壁によりかかるように身体を前方に倒していきます。手は90°以上挙げた状態でないと大胸筋が上手く伸びないので注意して下さい。

さいごに

他のケガでも言えることですが、上腕二頭筋長頭腱炎の場合は特に初期段階で見逃しや放置することで症状が慢性化してしまい、より一層治りづらくなるケースが多くみられます。日常生活やスポーツにおいて腕を酷使するような方で、上記のような症状・違和感を感じた際は早期の治療開始をお勧めします。

〇 その他肩関節の症例ページはこちら

上腕二頭筋長頭腱炎をはじめ肩関節周囲の痛みや違和感でお困りの方は、横浜駅徒歩12分【なる.整骨院】へご相談下さい。